デザイナーズノートのようなもの・その5

(この文章はTrick-taking games Advent Calendar 2021の17日目の記事として書かれたものです)

 そう言えば第2回TTP賞1次審査通過作品と佳作とが発表されたのですね。私事で恐縮ですが、1次通過が2作品、佳作が6作品と非常に高い評価を頂戴致しまして心から感謝致しております。やはり作者として何かコメントしておくべきかと思うので今日は佳作6作品についてお話しさせて頂きます。
 なお1次通過作についてはこれから2次審査がありますので発言は控えます。「よりによって相席とガットーネ?? なんだそりゃ?!」と叫び出したい気持ちはやまやまなのですが、そんなことは口が裂けても言うわけには参りませんので、グッとこらえて腹の中にしまっておきます。もしかすると心の叫びが漏れ聞こえたような気がする人がいるかもしれませんが、それは気のせいですのでスルーして下さい。
 というわけで昨年に引き続き「デザイナーズノートのようなもの・その5」と題しまして、佳作6作品についてのごく簡単なコメントです。

 「だるま」が生まれた経緯は去年の「デザイナーズノートのようなもの・その2」で書いたとおりです。
 なおこのゲーム、ポットのチップが雪だるま式に膨れ上がって借金で火だるまになるので「だるま」です。八八(花札の)で借金をしたときに受け取るだるまがありますが、あれからの連想も多少あります。ただ私は「なんでこのゲームの名前が『だるま』なのか」はどうでもいいことだと考えているので応募したルールには書きませんでした。いい機会なので申し上げておきますと、正直に言うと私はトリテの名前は「響きが良くて無意味なものが最高」だと考えています。うむ、無意味なもの最高(きっぱり)。
 「だるま」のベスト人数は7人だと思います。タロットと大量のチップが必要となりますが、よろしければお試し下さい。実は6人でプレイした場合にはトリックを取ったら降りないと大変な目に遭う可能性が高いです。ところが7人でプレイする場合には思い切って勝負した方がいいことが多いです。不思議なものです。

 「Domitrix」はずいぶん以前に作ったもので、応募したルールにも書いたように「我ながら何のひねりもないゲーム」です。第1回TTP賞で木村有理さんがドミノを使ったトリテをいくつか応募されていて、そういえば自分も昔ドミノのトリテをいくつか作ったことを思い出し、今回の応募となりました。
 ドミノは、例えば[1:6]のタイルだったら「1をスート、6をランク」としても逆に「6をスート、1をランク」としても、どちらにも使えるところがトランプにはない魅力です。ところが「トリックを取ることを目指すゲーム」であれば誰しも1はスートにして6をランクとして使いたいし、逆に「トリックを取らないようにするゲーム」であれば6をスートにして1はランクとして使いたいと誰もが考えます。これではせっかくのドミノの魅力が活かせません。そこで「ドミノのトリテにはプラス点とマイナス点の両方が必要だ」と考え、そのようなポイントテイキングゲームにしてみたというのが工夫と言えば工夫でしょうか。後はこれと言った特徴もなく、良く言えば素直、悪く言えば平凡なゲームだと自分では感じています。それでも必要最小限のルールに留めてシンプルにしたことが評価して頂いた理由なのかもしれません。

 「エクスキューズ」は応募したルールに書いた通りで、タロットの「道化(愚者)」に見られるエクスキューズの能力にヒントを得ています。このようなカードがたくさんあって、しかもビッダー以外の人が持っていたらどうなるのだろう、という発想から生まれた、ただそれだけのゲームです。それでも自分では割と気に入っています。
 ただ、13トリックの争奪戦なので過半数の7トリックを最低ビッドとしましたが、実際にプレイすると驚くほどトリックが取れません。ルールにわざわざ注意事項として「9トリック以上取るのはかなり大変です」と書いたくらいトリックを取るのはキツイです。最低ビッドを5トリックにしておけばもっと面白いゲームになっていたかな、と後悔することしきりで、手直しすることを考えています。

 「替え玉トリック」は、これも応募したルールに書いた通りで
「『正体隠匿系』と呼ばれる一連のトリテ(のみならず様々なゲーム)があります。ナポレオンがその代表だと思いますが、それに対抗して『ゲーム開始時点では本人でさえ正体が未確定』というゲームを作ってみました」
……という、そういう試みです。私自身かなり気に入っているゲームで、これを佳作に選んで頂いたことは素直に嬉しいです。
 考えてみると、私の頭の片隅にずーっと、もう本当に長い間引っ掛かっている問題があって、「替え玉トリック」を作った遠因はこれなのだと思います。それは「ナポレオンで手札が悪いときに限って副官に指名される問題」とでも言いましょうか、「なんでこんな時にオレを選ぶんだよ! オレの手札マイティ以外カスだぞ?!」と叫びたいけれど口には出せないあの辛さ。そこから、副官になるかならないか自分で選べるゲームは作れないものかと、もう四半世紀も思案しております。(ソロホイストの「プロップとコップ」ですでに実現されてるだろ、というツッコミはなしです)
 「替え玉トリック」は残念ながらこの問題に対する直接の答えにはなっていません。それでも通じるものはあると思います。
 このゲーム、二十面相の勝率が高いと思います。じゃあジョーカーを配られた人はさっさと正体を明かして二十面相になれば勝てるかと言うともちろんそんなことはなくて、早々に二十面相になると明智探偵と小林少年が協力して向かって来ますから勝つのは難しくなります。なので二十面相になるのはなるべく遅らせたいのですが、そうするともう一人のジョーカーの持ち主が二十面相になってしまうかもしれません。なるべく遅く、でも相手よりは早く二十面相になりたい、というジレンマがうまい具合に生み出せたゲームです。
 勝利条件が少々複雑になってしまっているのでその点は難ありだと自分でも思いますが、まあそれでも自分の考えがある程度実現できたゲームだと考えています。

 「Secretary」は昨年の「デザイナーズノートのようなもの・その1」にも書いた通りで、「ノーティス」のパクリと言われることを恐れていたのですが、佳作にまで選んで頂いてありがたいことです。改めて「ノーティス」のルールを拝見すると「Secretary」とほぼ同じゲームであるものの細かな違いもいろいろありますね。面白いものです。
 ちなみに「Secretary」は昨今流行の「協力型トリテ」としてもプレイできます。

 「トリカルティータ」は……、これも応募したルールに書いた通りで(応募したルールを見直してみるとどのゲームも今さらコメントする必要がないくらい説明を書いてますね)スポイルファイヴを下敷きにしているように自分では感じています。9枚の手札を使って、どのタイミングで仕掛けるか悩むゲームにしたつもりですが、今一つ実現できていない気もします。勝ち目のない手札ならせめて他人の邪魔をすることを目指すあたりがスポイルファイヴに似ています。基本的にはギャンブルゲームですね。
 ちなみに「トリカルティータ」とは「三つの部分に分けられた」という意味のtripartitaとtrickを掛けただけの、苦し紛れの命名です。

 以上、佳作6作品についての簡単にコメントしてみました。
 私はトリックテイキングゲームの創作を趣味としていますが、正直なところ「創作」と呼べるようなものではないと考えています。トリテにはがっしりとした枠組みがあらかじめ用意されていますので、基本的にそれに従って、自分のオリジナルな部分は最後に少し加えるだけということになります。いつも思うんですが、これっていわゆる「シナリオ」に近いよな、と。
 私はTRPGはよく知らないんですが、シナリオってのはもともとはTRPGで使われていた考え方なんじゃないのかなと想像しているんですがどうでしょう? とにかくボードゲームにシナリオの概念を持ち込んだのはおそらく「海カタン」、つまり「カタンの航海者たち」だと思います。他に有名どころだと「アンドールの伝説」なんかにもシナリオはありますね。トリテを作るのは「ゲームを創作する」というよりはむしろああいったシナリオを作ることに近いと感じています。
 実は私もトリテでないゲーム、オリジナルのゲームを一から創り上げてみたいという気持ちは昔からありますし、作ったものも多少はあります。でも残念ながら発表できるようなものではなく、自分の才能のなさを痛感するばかりです。
 ではトリテだったら、ゲームの創作というよりはシナリオの作成程度のことなのだから簡単か、というとそうでもないんですよね。シナリオ程度のものであっても残念ながら私の場合アイディアはそう簡単には思い浮かびません。思いついたことは多くの場合すでに伝統的なトランプゲームの中で使われていますし、そうでなければほぼ間違いなくパーレットがすでにゲームにしています。白状すると「トリテで伝統ゲームもパーレットもやらなかったことはあるのか」という問いの答えを見つけるために私はトリテを作っているところがあるのですが、だんだん「たぶん、ない」というのが正解として私の中で確定しつつあります。少なくとも私はトリテでパーレットがやらなかったことを何一つ達成できていません。パーレットの後にはペンペン草も生えてません(実際、ギュンター・ブルクハルトのトリテ作品のほとんどは、元ネタをパーレット作品の中に見つけることが出来ると私は考えています)。何なんですかね、パーレット作品の持つあの「正統派トリテ」の品格と美しさは。奇を衒ったところが何一つなく、すべてのルールが必然的で、それでいてトリテにおいて為されるべき試みはすべてやり尽くしたとしか思えない作品群。パーレットに追いつくのが不可能だということは百も承知で、それでも死ぬまでに一度くらいはせめてパーレットの影を踏むくらいのことはしたいと望んでいるのですが、叶わぬ夢なんでしょうね……。
 ではトリテのシステムを大きく崩して、その代わりに別のシステムと組み合わせて、これまでにないゲームを作るのはどうか、という考えもあるのでしょうが、私はそれはあまりしたくありません。私はトリテが好きで、だからこそ「トリテもどき」は好きではないのです。「トリテもどき」を自分で作る気にはあまりなりません。それをするくらいなら全然別のシステムのゲームを作りたいところなのですが、そして実際作ろうと頑張ってはいるのですが、難しいですね……。
 まあとにかく、今回のTTP賞でも私の応募作(というか「シナリオ」というか)を高く評価して頂きまして誠にありがとうございました。これから2次審査とのことで審査員の方々のご苦労はまだまだ続くのでしょうが、どうぞよろしくお願い申し上げます。

黒宮公彦