TTP in Kobeにお邪魔しました

(この文章はTrick-taking games Advent Calendar 2023の25日目の記事として書かれたものです)

 本題に入る前にまず、14日目の記事でカズマさんが私の書いたものに言及しておられますので一言申し上げます。私の記事を挑発だと受け取られたのであれば申し訳ございませんが、私自身はまったくそのような意図はございません。私はわりと平気で世間様に喧嘩を売りますが(え?)、少なくともこのアドベントカレンダーで個人を挑発したり攻撃したりはしていないつもりです。
 実を言うとこのアドベントカレンダーの記事は、毎年11月初め頃にくぼたやさん(trump_bridgeさん)からのご依頼を受けて書いているもので、例年11月中に4本ともほぼ書き終えています。12月に入ってから、発表直前に多少手直しすることもありますが(現に今カズマさんの記事を受けて加筆しています)、基本的には他の執筆者の記事の内容を知る前に書いているのでして、私の書きたいことを好き勝手に書いているものです。この点をご理解いただけましたら幸いです。

 もう一点、先日の「スカートの話」で私、大きな勘違いをしていたのでお詫びして訂正させて頂きます。パーレットが、スカートは切り札が1枚もなくても勝負できると述べた、ということに関連して、Aと10の6枚すべてがトリックに勝つという前提に無理がある、と書いたわけですが。よく考えたら3枚のAのうち2枚をスカートに入れて、残ったA1枚と103枚で4トリック取ればいいんですね。それならなんとかなるように思います。そうか、できなくはないのか。でも本当にいけるか……?

 それはさておき。去る11月19日、神戸でTrick Taking Party in Kobeというイベントが催されました。私もご連絡を頂戴しまして、お邪魔させていただきました。もともと東京で(私も詳しいことは存じませんが、おそらくひげくまごろうさんの主催で)行われている、その名の通りトリテ限定のゲーム会Trick Taking Partyを神戸でもやろうじゃないか、という集まりだったようです。
 当日はハーツ(ブラックレディ)の大会が行われまして、その後は皆さん各テーブルに分かれてそれぞれに好きなトリテに興じる、という感じで進行しました。私が参加させていただいて印象に残っているのは「波乱と海原(Seas of Strife)」というトリテで、プレイ中どなたかが「昔出てたゲームのリメイクなんですよ」とおっしゃっていたので、帰宅後に調べたら、これテキサス・ショウダウンのリメイクだったんですね! テキサス・ショウダウンの噂は耳にしていましたがプレイしたことはなかったのでプレイできてよかったです。で、感想なんですが、えー、面白かったです。面白かったんです、が、何をすればいいのかさっぱり分からん! いわゆるミゼールとかトリック・アヴォイダンスと呼ばれる、つまり「トリックを取らないようにする」系のゲームなんですが、「このカードは絶対にトリックを取ることがない」と断言できる安全なカードがない、という点が高く評価できると感じました。ではありますが、いやしかし……。何をどうすればいいのかさっぱり分からないゲームですね。なのに何か面白い、不思議なゲームでした。
 ハーツの大会はまず予選4ディールを行い、その成績に従ってテーブルを移動して決勝4ディールを行う、という形式だったのですが、予選・決勝の前後の空き時間にはどちらのテーブルでも「何かトランプを使ったトリテでもしましょうか。ハーツか、ハーツのヴァリアントか何か」という発言があったのか面白かったです。ついうっかり「じゃあ、ペッパ・シヴォローサっていうイタリアのゲームはいかがです?」なんて言ってしまって、結局私が着席した2つのテーブルのどちらでもペッパ・シヴォローサをプレイすることになりました。神戸からの帰りの電車の中(私は京都在住です)「結局今日オレは神戸にペッパ・シヴォローサを布教しに行ったってことなのか?」とぼんやりと思ったことでした。
 同時にまた、京都でもこうしたイベントが開催できればいいなと感じた次第です。誰かやりません?

 さて、と。ここまで書いたらペッパ・シヴォローサのルールを紹介しないわけにはいかないでしょう。というわけでご紹介します。いや布教じゃありませんって。あくまでもクリスマスプレゼントだとお考え下さい。

○ペッパ・シヴォローサ(Peppa Scivolosa)という名前について
 イタリアではハーツは「クォーリ(Cuori、「心、ハート」の複数形)」あるいは「ペッパ(Peppa、スペードQの愛称に由来)」などと呼ばれます。
 「シヴォローサ」というのは「滑りやすい」という意味ですが、ヨーロッパのトランプゲームでは要らないカードが押しつけられることを「不要なカードが滑る(滑り込んでくる)」と表現することが多いように思います。ですからペッパ・シヴォローサは「滑り込んでくる(要らない)スペードのQ」というような意味でしょう。

○ペッパ・シヴォローサとは要するに何なのか
 早い話が4人でプレイするハーツです。ハーツと何が違うかと言うと、ハート2はマイナス2点、ハート3はマイナス3点、ハート4はマイナス4点、……というようにマイナス点が大きくなります。ハートJはマイナス11点、ハートQはマイナス12点、ハートKはマイナス13点、ハートAはマイナス14点です。これでスペードQがマイナス13点のままでは面白くないので、2倍してマイナス26点にします。
 そうしますとマイナス点の合計は全部で130点となります。そして手札は13枚なので1ディールは13トリックから成っています。ということは……? 1トリック取るごとにプラス10点ということにすれば「ゼロサム」、すなわちゲーム全体の得点がプラスマイナスゼロになるではありませんか!
 たったそれだけのゲームです。とはいえ私が初めてこのルールを知った時には後頭部をバットでぶん殴られたような衝撃を受けましたけどね。

○詳細
 ハーツに様々なヴァリアントがあるように、ペッパ・シヴォローサにも様々なヴァリアントがあるようです。ここで述べるルールは以下の [a]、[b] にある記述に基づきます。
[a] E. FantiniとC. E. SanteliaのI Giochi di Carte(第3版、1997年、ミラノ:Biblioteca Universale Rizzoli)
[b] イタリア語版ウィキペディアのPeppaの項。https://it.wikipedia.org/wiki/Peppa
 以下、通常のハーツ(ブラックレディ)との違いだけ述べます。

(1) [a] ではなぜか、マイナス点のカードがハートではなくダイヤとなっていますが、ハートでいいと思います。
(2) 手札の交換
 [a] では「手札から2枚選んで左隣に渡す」、[b] では「手札から3枚選んで、第1ディールでは右隣に、第2ディールでは左隣に渡す。第3ディールでは交換せず、第4ディールでは向かい合った人どうしが交換する。第5ディール以降は以上を繰り返す」とあります。
(3)「オープニングリードはクラブ2でなければならない」というルールは書かれていません。オープニングリードはディーラーの左隣が行う、この人は好きなカードを出してよい、ということでしょう。
(4)「誰かがハートをディスカードするまでハートをリードしてはならない」というルールは書かれていません。ハートがブレイクする前にハートをリードして構わないということでしょう。おそらくオープニングリードであってもハートを出していいのだと思われます。
(5) カポット
 あ、しまった。神戸で皆さんに「シュートザムーンはありません」って言っちゃった。お詫びして訂正いたします。シュートザムーン、つまり「ハート13枚とスペードQをすべて取った人に与えられるボーナス」はあるようです。ただしシュートザムーンではなく「カポット(cappotto)」と言います。
 [a] では「達成した人はマイナス130点が帳消しの上、プラス30点を獲得する一方、他の3人は10点ずつマイナスとなる」、[b] では「達成した人はマイナス130点が帳消しの上、プラス45点を獲得する一方、他の3人は15点ずつマイナスとなる」となっています。
 問題は、これとは別に「1トリック取るごとにプラス10点」は有効なのか、ですが、原文には明記されていません。おそらく有効なんじゃないかなと思います。ただし下記も参照のこと。
(6) ゲームの終了
 [a] では「累計得点が最初に50点に達した人の勝ち」、[b] では「12ディール行って最も得点の高い人の勝ち」となっています。
 前者の場合、カポットを決めたら一発で50点を軽く超えると思うんですけど(なにせ1トリックにつき10点が追加されるので)、このルールでいいのかな? もしくはカポットの場合「1トリック取るごとにプラス10点」は無効になる、ということなのかもしれません。

 ペッパ・シヴォローサはこのようなゲームです。Trick Taking Party in Kobeのおかげで久しぶりにプレイすることができましたが、私はこのゲームがハーツよりずっと好きだということを再確認しました。「ハートKはマイナス13点、ハートAはマイナス14点」なんて聞くと大変そうに思えますが、実際には1トリックにつきプラス10点が得られますから失点は意外と小さくなるのです。通常のハーツではスペードQのマイナス点が圧倒的に大きいためゲームが大味になりがちですが、ペッパ・シヴォローサではハートのQKAあたりもマイナス点が大きく、相対的にスペードQのマイナス点が小さくなっていると言えます。その上スペードQを取るということはトリックを取ることでもあるので、トリックによるプラス10点を考えるとスペードQによるマイナス点はそれほど大きくありません(まあそれでも大きいですけど)。
 そして何よりも、通常のハーツではトリックは「取らないに越したことはない」ものなのでトリックを取らないことだけを考える、かなり単純なゲームであるのに対し、ペッパ・シヴォローサではトリックを取ることにはメリットがあるけれども同時にリスクも負うことになるという、複雑で一筋縄ではいかないゲームとなっているのが魅力です。別の言い方をするとプレーヤーに「このトリック、取るべきか取らざるべきか」というジレンマを与えるゲーム、とでも言いましょうか。この意味で、ハーツが古典的トリテに属するのに対し、ペッパ・シヴォローサは現代トリテに属すると考えていいでしょう。古典的トリテにほんのわずかなルールを追加するだけで現代トリテに変貌するとは、驚くべきことだと思います。
 例えば、誰かがハート2をリード、続いてハート3、ハート4が出されてあなたの手番、あなたの手にはハートはA・J・8・6、なんて状況を考えてみましょう。通常のハーツなら何も考えずにハートAを出してトリックを取り、返す刀でハート6をリードするところですが(いや、そうでもないか。それは悪手か)、ペッパ・シヴォローサではそうはいきません。このトリックをハートAで取ったら-13点(-2-3-4-14+10)ですが、ハートJで取ったら-10点、ハート8なら-7点、ハート6なら-5点で済みます。でもここで6を出してAJ8を残すのはリスキーでしょう。となると……と、もうこれだけで十分悩めます。
 このようにペッパ・シヴォローサは魅力的なゲームだと私は考えます。皆さんも一度お試しになってはいかがでしょうか。

 ではみなさん、どうぞよいお年を!

黒宮公彦