デザイナーズノートのようなもの・その2

(この文章はTrick-taking games Advent Calendar 2020の10日目の記事として書かれたものです)

 今回もTTP賞応募作のデザイナーズノート(のようなもの)です。
 第2回TTP賞に応募させて頂いたのが48作あるわけですが、この48という数字はかなりいい加減なものです。同じゲームに3人用ルールと4人用ルールがあったとして、後者に別の名前を付けて独立させてしまえば2作となるわけです。もちろん同じゲームを2つに分けるなんてことはしませんけれども、3人用のゲームを4人でプレイできるようにするためには多くの場合ルールを追加したりルールの一部を変更したりする必要があり、3人用ルールと4人用ルールがまったく同じということはあまりありません。あれこれと手を加えているうちに「これで元のゲームと同じ言えるのか?」という状態になってきて、1つのゲームのままにしておくべきか2つのゲームに分けるべきか悩むことはよくあります。実際「一橋」と「御三卿」を1つのゲームとして応募しましたが、これらを別々のゲームとしてカウントしたら49作あることになります。(もっとも前回の記事にも書いたとおり「一橋」は私の作品だとはとても言えません)

 別の例を挙げましょう。ずいぶんと昔のことですが「トリテは最低何枚あれば成り立つのだろうか」とふと疑問に思ったことがありまして。まあ実に下らない疑問だと自分でも思うのですが、それでも「トリックテイキングゲームとして成り立っている、カードが最小枚数のゲームを作る」という目標を掲げてしばらく頭をひねっていたことがあるのですよ。
 このとき大事なことはですね、絶対にブラフの要素を取り入れないことです。ブラフの要素を取り入れたら「トリックテイキングの皮を被ったブラフゲーム」になってしまってトリックテイキングにはなりません。例えばトリュックというトランプゲームがあります。トリュックではスートは無関係なのでフォローもヘチマもなく、おかげで「これはトリテなのか?」と議論になったりしますけど、私に言わせればトリュックはブラフゲームなのであってトリテかどうか議論すること自体が無意味だと感じます。実際プレイ感はハーツやホイストよりもポーカーにはるかに近いですし。そこで「ブラフの要素まで取り込めるのがトリックテイキングの懐の深さなのだよ。トリックテイキングの可能性は無限大なのだ」と考えるか、それとも「これはトリックテイキングではない」と考えるかなのですが、私の個人的な意見は後者です。私がトリックテイキングに求めている魅力はブラフではないのであって、創作に際してもわざわざトリテを作るからにはトリテの魅力が味わえるものを作ることを目指しています。ブラフゲームはブラフゲームがしたいときにしたいのでして、トリテがしたいときに「トリテの皮を被ったブラフ」がしたいとは思いません。
(おそらく私はブラフゲームがあまり好きじゃないんだと思います。ポーカーも好きじゃありません。ついでに言うとトリックテイキングの可能性が無限大だとはまったく思いません。むしろトリックテイキングの可能性はほぼ出尽くしているのだと考えています)

 そういうわけで「トリックテイキングとして成り立っている、カードが最小枚数の、ブラフ要素を含まないゲーム」を作ろうとしていたわけですが、そのとき浮かんだアイディアが「1トリックだけ取ることを目指すゲーム」にするということでした。こうしてカード10枚で3人でプレイする「ミニモ」が生まれました。TTP賞に応募した「ミニモ」のルールにも書いたとおり「3人で10枚、これが限界。これ以上減らすと『ジャンケンした方がマシ』ってことになる」というのが私の結論です。当初の目的はあくまでも「カードが最小枚数のトリテを作ること」なので4人以上でプレイする際のルールには存在意義がないのですが、「1トリックだけ取ることを目指すゲーム」は案外面白いと気づいて4〜6人用のルールも作りました。
 「ミニモ」の5〜6人用のルールには少し特殊なルールを加えたのですが、あるときふと別の解決法を思いつきました。これと、さらに「There Were None」(こちらは第1回TTP賞に応募しました)を組み合わせて作ったのが今回応募した「だるま」です。「だるま」のプレイ人数が5人以上となっているのはこのためで、「だるま」の3〜4人用ルールが「ミニモ」だと言えなくもありません。なので「ミニモ」と「だるま」をくっつけて1つのゲームとして発表してもよかったのですが、ルールもプレイ感もかなり違うので分けることにしました。ことほどさように1つのゲームのままにしておくべきか2つのゲームに分けるべきかは悩ましい問題です。そしてまた、これまでの話からお分かりのように、今回発表はしませんでしたが「ミニモ」には実は5〜6人用のルールもあるのでして、これも「ミニモ」と「だるま」を分けた理由の1つです。

 さて、「最小枚数のトリテ作り」の方はその後どうなったかと言いますと。ずいぶん昔に作った「ガットーネ」という2人用ゲームがありまして、これに手を加えたらもっと少ない枚数でもいける、とあるときふと気づきました。正直言って私、2人用トリテというのは特殊なもの、言い換えると正統派のトリテだとは言えないものだと考えております。そのため、カードの使用枚数を減らすだけのために2人用のトリテを作るというのは発想が根本的に間違っていると思ったんです、最初は。でも次第に「もし出来るとしたらどんなゲームになるんだろう?」という好奇心が勝っていきまして、結局作ることにしました。こうして生まれたのが今回TTP賞に応募した「ジョリー」です。
(ちなみに、実を言うとその後「ブラフ要素を取り入れてもいいからカードの使用枚数を極限まで減らしたトリテ」を作ってみようとしたことがあります。その結果「2人用、使用カード数3枚、手札1枚」というわけの分からないものが生まれてしまったのですが、案の定単なるブラフゲームであっておよそトリテとは呼べないものとなってしまいました)

 今回のTTP賞の応募に際して、1人用や協力型のゲームも作りたいと考えました。「ジョリー」を作ったのはもうずいぶんと前のことなのですが、久しぶりにルールを引っ張り出してきて眺めていると「これ、1人でもいけるんじゃ?」と思いつきまして、作ってみました。出来上がったものは正直言って大して面白くもない、暇つぶしにはなるという程度のゲームなのですが、「カードにおちょくられている気がする」という感覚だけは味わえます(笑)。
 それはさておき、その次の段階として「1人用が作れたってことはこれを協力型ゲームに改変することもできるのでは?」と考えました。そこで作ってみました。当初は2人用として作ったのですが、わりと人数の拡張がしやすいゲームなので3〜4人用のルールも作りました。こうなってくるともはや「ジョリーの協力型ヴァリアント」とは言えなくなってきますので(「ジョリー」はあくまでも「カードが最小枚数のトリテを作ること」を目的として作ったのです)協力型ゲームの方は「帳尻」という名前にして、こちらもTTP賞に応募することにしました。
 それにしても昨今は協力型トリテがブームなのか?ってくらい協力型トリテが増えましたね。私が今回TTP賞に応募したのは「帳尻」と「ゲナウ」、それに協力型でもプレイできる「Secretary」、この3つだと思うのですが(すみません、48もあると自分でも記憶があやふやです)、確かに面白いジャンルだと自分で作ってみて実感しました。

 実のところ「最小枚数のトリテを作る」という目標のために作ったトリテなんて応募に値しないと考えていたので第1回TTP賞に「ミニモ」は出しませんでした。この記事で名前を出したゲームの中で第1回TTP賞に応募したのは「There Were None」だけです。ところが第2回のTTP賞に向けて久しぶりに「ミニモ」を引っ張り出してきたら芋づる式に「だるま」「ガットーネ」「ジョリー」が発掘されて、「ジョリー」のルールを眺めているうちに1人用ルールが生まれて「帳尻」が派生し……という具合に増えていきました。こうしたものをとりあえず応募の「候補」にしておいただけのはずがいつの間にやら全部応募してしまっていた経緯については先日の記事に書いたとおりです。(それにしても「ガットーネ」……。いやあ、我ながら何のひねりもないゲームですなぁ……(苦笑))

 以前から私は「作ったトリテが勝手に増殖していく」という感覚を抱いていました。今回応募した48作のうち私が作ったのはたぶん20もないはずで、あとは勝手に増えたのだろう、と。そうでなきゃ48もあるなんておかしいです。何度も言うように1つのゲームを2つに分ければ2つになりますから(例えば上に挙げた「Secretary」だって対戦型と協力型とで別ゲームにすることは十分に考えられます)、48作を内容はそのままで50以上に増やすことも可能だろうと思います。
 上では「作った」と書きましたけど、実際には私は何もしてなくて、勝手に増えたんです。「これを4人用にしたら?」「協力型にしてみると?」「以前作ったあのゲームのアイディアを転用すると?」、そういったことを考えているうちにゲームは私の頭の中で勝手に増えていきます。私はせいぜいテストプレイをしてルールを整理し、文章化する作業をしただけのことで、あとは何もしていません。そんなことを以前からぼんやりと感じていたのですが、今回こうして改めて文章にしてみると……やっぱり創作トリテって勝手に増殖していきますね!?

黒宮公彦