フォローのいろいろ

(この文章はTrick-taking games Advent Calendar 2019の18日目の記事として書かれたものです)

 12日のカズマさんの記事を拝見して、思わず棚からバッハのイタリア組曲を引っ張り出してきてしまいました。もうすぐクリスマスというこの季節に聴くのもいいものですね。手持ちのグールドのCDにはパルティータの1番も収録されていて、これまたこの季節にぴったりの曲のように思います。

 さて今年は4日にブランデルン9日にピノクル14日にオールフォーを扱った記事を書きましたが、偶然ながらいずれもフォローのしかたが少々特殊なゲームです。フォローはトリックテイキングを支える基本概念の一つですし、今回は「フォロー」についてちょっと考えてみたいと思います。が、本題に入る前に少し前置きをさせて下さい。

 「マストフォロー」やら何やらという、あの手の用語はすべて和製英語です。おそらく松田道弘氏の造語ではないかと思います。英語としてはまったく不自然なことばではあるのですが、非常に便利であることは認めざるを得ず、私は積極的に使うことにしています。なので「マストフォロー」等々の用語を作ったことは松田道弘氏の業績として高く評価されるべきだと個人的には考えております。
 ちなみに英語には「マストフォロー」に該当する単語はなく、“Follow the suit led if possible.” などと表現します。私の知る限りイタリア語にもフランス語にもこれを表す単語はありません。これに対してドイツ語には用語がちゃんとあって、Farbzwangといいます。さらにTrumpfzwang(マストラフ(マストトランプ))やStichzwang(マストウィン)という用語もあります。ただ「メイフォロー」に該当する単語は私が知る限りありません。この点でもしかすると日本語が一番便利なのかもしれません。
 しかし便利だとばかりも言ってられません。「ポテトマン」というゲームが出て以降広まりつつあるかのように見える「マストノットフォロー」(ちなみにこのルールが歴史上初めて登場するのはパーレットのFlashpointだと思いますが)、どうもあれは戴けません。私なんぞはどうしてもあの “must not” という響きにザラリとした居心地の悪さを感じてしまいますし、それに何よりも「台札のスートをフォローしてはならない」のではなく「すでに場に出されているどのカードともスートの異なるカードを出さなければならない」のですから「マストノットフォロー」では意味が通りません。「どうせ何をしたって和製英語なんだから」と言われればそれまでですが、やはりもう少し適切な用語を模索すべきだろうと愚考致しますです。
 いずれにせよ以下マストフォロー、メイフォロー、マストラフ、マストウィンといった用語を使いながら話を進めることにします。

 では本題に入りましょう。「トリックテイキングゲームにはマストフォローのものとメイフォローのものとがあります」ってな話を時折ネットで見ることがあって、その度に私は「え?」と感じてしまいます。私はトランプやタロットを使った伝統的なトリテが好きなので、そのせいでしょうけれども。伝統的なトリテの観点からしますと、マストフォローは数が多い上にフォローの仕方の基本でもあるので特別扱いされるのは当然ですが、他方メイフォローはかなりマイナーな存在と言えます。私の頭の中ではトリックテイキングゲームにおけるフォローの仕方は「マストフォロー」と「その他もろもろ」とがあって、メイフォローは種々雑多な「その他」のうちの1つに過ぎません。上にも述べたとおりマストラフやらマストウィンやらといったものもあるのでして、そういったものを差し置いてメイフォローだけがマストフォローと肩を並べているのは奇妙だと感じてしまいます。もちろんマストラフやマストウィンをマストフォローに含めるという考え方も可能でしょうが、そうなると圧倒的大多数がマストフォローとなってしまうので、それはそれでメイフォローがマストフォローと同格に扱われるのは変だということになってしまいます。
 というわけで「伝統的なトリテにおけるフォローの種類」について見てみたいと思うのですが、「手札から台札(=リードされたカード)と同じスートのカードを出す」なんていちいち言っていては面倒ですので、以下これを「フォローする」と表現します。
 さて、まずは基本中の基本、マストフォローです。「マストフォロー」って何ですかね?そりゃもちろん
a) 台札をフォローできるならフォローしなければならない。
というルールのことだろ?と多くの人が考えるのでしょうが、実際には以下のルールも暗黙の前提とされていると考えるべきでしょう。
b) 台札をフォローできるカードが手札に複数枚あるならそのうちのどれを出してもよい。
c) 台札をフォローできないならどのカードを出してもよい。
 意外とこうした点を押さえておくのが重要でして、以下これを念頭に置きつつマストフォロー以外のフォローの種類について見ていくことにしましょう。

(1) まずはメイフォロー。つまり「何の縛りもなく、手札からどのカードを出してもよい」というルールですね。伝統的なトランプゲームでは、典型的には2人用ゲームの前半戦に登場します。2人用ゲームではすべてのカードを配りきってしまうと完全情報ゲームとなってしまうので、一部を手札として配って残りは山札とし、1トリック終えるごとに山札から補充、というタイプのゲームがわりとあります。この場合マストフォローのルールを適用するわけにいかないので山札が残っている間はメイフォローとなります。例として66、ベジーク、2人式ピノクルなどが挙げられます。こうしたゲームでは山札がなくなった時点でマストフォローのゲームへと切り替わります。
 ブリスコラもこれと似ているのですが、カードが全部で40枚なのに対し手札は3枚しかないので、どうやら「最後の3トリックだけマストフォローにしたってしょうがないだろ!もういっそ最後までメイフォローにしてしまえ!」ということのようで、最初から最後までメイフォローです。しかもプレーヤーが3人以上でも「手札3枚・1トリックごとに山札から補充」式なので最後までメイフォローで行われる点が珍しいと言えます。そんなブリスコラの中にあって「5人式ブリスコラ」は手札は8枚ずつで配りきり(山札なし)という異端児ですが、それでもメイフォローでプレイされるあたり、ブリスコラの遺伝子を受け継いでいると言えます。
 余談になりますが、ここ数年「5人式ブリスコラのうちマストフォローのものを『ブリスコラ・キアマータ』、メイフォローのものを『ブリスコラ・ブジャルダ』と呼ぶ」という誤解が広まりつつあるようで驚いています。確かに「5人式ブリスコラはマストフォローで行われる」とパーレットの本には書かれていますが、パーレットは所詮イギリス人なのでして、5人式ブリスコラがマストフォローで行われると述べたイタリア語の文献を私は知りません(今回この記事を書くために6冊ほど確認してみましたがすべてメイフォローとなっています)。そしてまた5人式ブリスコラには非常にたくさんの別名があるのでして、要するに「ブリスコラ・キアマータ」と「ブリスコラ・ブジャルダ」は同じものです。もちろん5人式ブリスコラにもいくつかヴァリアントがあると思いますが、異なるヴァリアントを異なる名称で呼ぶということは私の知る限りではありません。ちなみに「ブリスコラ・ブジャルダ」は呼び名としてかなり珍しく、ふつうは「ブリスコラ・イン・チンクェ」「ブリスコラ・キアマータ」「ブリスコラ・ア・キアマーレ」と呼ばれ、まれに「ブリスコラ・バスタルダ」「ブリスコラ・パッツァ」等と呼ばれることもある、といった感じでしょうか。
 話を元に戻しますと、ブリスコラのように特殊な事情があるものを除けば、最初から最後までメイフォローで行われる伝統的なトランプゲームというと私は「カルネフェル(カイザーシュピール)」という古いゲームとその仲間、それに「ヴァッテン」しか思いつきません。トリックテイキングが生まれた時点まで遡れば、最初のゲームはおそらくメイフォローだっただろうと私は想像していますが、少なくともヨーロッパでトリテが盛んになって以降はメイフォローは少数派だと思います。

(2)「フォローできるとき、フォローしてもいいし切り札を出してもいいが、ディスカードはできない。フォローできないときは何を出してもよい(切り札を出す必要はない)」。このようなフォローの仕方に名前はありませんが、「オールフォー」やその仲間はこのルールに従ってプレイされることが多いです。また「スポイルファイヴ(トウェンティファイヴ)」やその仲間もこのルールに従うと多くの文献で述べられています。ただしこれに加えて最も強い3つの切り札についてはややこしいルールがあります。
 さらにスイスの「ヤス」も原則としてこのルールが適用されますが、非常に複雑なルールになっています。これについては後で述べます。

(3)「フォローできるとき、フォローしてもいいし切り札を出してもいいが、ディスカードはできない。フォローできないときには切り札を出さなければならない」。スポイルファイヴやその仲間について多くの文献では (2) のルールが紹介されていますが、一部の文献ではこちらのルールに従うとされています。スポイルファイヴにもいくつかヴァリアントがあるということでしょう。

(4) さてマストラフ。「マストトランプ」とも呼ばれます。つまり「フォローできないときには切り札を出さなければならない」というルールですね。多くのタロットゲーム、あるいはスイス以外のヤス系ゲーム(クロビオッシュやブロットなど)でよく見られるルールですが、マストウィンと抱き合わせになっていることが多いです。
 純粋なマストラフのゲームというと例えば、タロットと結び付きの深いバイエルンの「タロック(ハーフェアルタロック)」が挙げられます。

(5) いよいよ問題のマストウィン。大まかに言えば「マストフォローを守った上で勝てるカードがあるなら必ずそれを出す」というルールのことなのですが、実は明確な定義はなく、ゲームごとに細かな違いがあります。とりあえず以下の4点を押さえつつ区別しておかなければなりません。
a. 台札をフォローできるならフォローしなければならない。その上ですでに場に出されているカードよりも強いものがあるならそれを出さなければならない。
b. 台札が切り札で、すでに場に出されている切り札よりも強いものが手札にあるならそれを出さなければならない。(aで台札を切り札に限定したもの)
c. 台札をフォローできないなら切り札を出さなければならない。(マストラフ)
d. 台札をフォローできないなら切り札を出さなければならない。その上ですでに場に出されている切り札よりも強いものがあるならそれを出さなければならない。(いわゆる「マストオーバーラフ(マストオーバートランプ)」)
 「マストウィン」と呼ばれているものは実際にはこれらを組み合わせたものであり、その上多くの場合にはさらに個別の特殊ルールが加わって複雑怪奇の様相を呈します。プレイ人数が2人の場合には話はそこそこ簡単なのですが、3人以上の場合にややこしくなります。というのも上記のdは2人の場合には無縁のルールなのでして、3人以上になって初めて問題となってくるからです。その上アンダーラフの問題も生じます。「アンダーラフ(アンダートランプ)」とは「すでに出されている切り札よりも弱い切り札を出すこと」です。プレイ人数が3人以上のときにマストラフを採用すると「アンダーラフは義務かどうか」、すなわち「台札をフォローできないとき、すでに場に出されている切り札よりも強いものがなくても、手札に何らかの切り札がある限りそれを出さなければならないのか」が問題となってきます。これが4人戦でパートナーが絡むともなりますと、はっきり言って人智を超え、人間にはプレイ不能な領域に突入します(いや、さすがにそんなゲームはないな)。なにせ「アンダーラフ禁止」という「オートバイの二段階右折禁止」並に理解不能な(えっ?)ルールさえあるのですから。
 念のためにお断りしておきますと、上記のcやdを採用するゲームでは基本的にアンダーラフは義務です。とはいえ例外もありますし、具体的にいくつかのパターンと、それに当てはまる代表的なゲームとを見ておくことにしましょう。
(5-a)「aのみ適用する。台札をフォローできないとき切り札を出さなくてよい」。「ブランデルン」は多くの文献でこのルールに従うとされています。
(5-b)「bのみ適用する」。4人式ピノクルのヴァリアントにはこのルールを採用するものがあるようです。
(5-c)「cのみ適用する」。これは要するに「純粋なマストラフ」とでも呼ぶべきもので、(4) で見ました。ハーフェアルタロックやタロットゲームの一部(例えばスカルトやツェゴ)などではこのルールに従います。
(5-d)「b、cを適用する」。3・4人式ピノクルではわりとよくこのルールが採用されるのではないかと思います。またクロビオッシュもこのルールに従います。
(5-e)「a、b、cを適用する」。66、ベジーク、2人式ピノクルといったゲームの後半戦が該当します。また「エカルテ」は最初から最後までこのルールです。どうも2人用ゲーム御用達の観があります。
(5-f)「b〜dを適用する」。フランスのタロットゲーム「タロー」が該当します。3・4人式ピノクルでもこのルールが採用されることがあるかもしれません。
(5-g)「a〜dのすべてを適用する」。こちらも3・4人式ピノクルではわりとよく採用されるルールではないかと思います(少し古いルールかもしれませんが)。オーストリアの「プレフェランス」もこのルールですが、もう少しややこしいルールが加わります。

 他にもあると思いますが、書いててウンザリしてきたのでそろそろやめます。最後にフランスのブロットと、スイスのヤスのフォローのルールについて見ておくことにしましょう。

1.ブロット
(1) 台札が切り札でない場合、フォローできるならフォローしなければならないが、すでに場に出されているカードよりも強いものが手札にあってもそれを出さなくてもよい。
(2) 台札が切り札の場合、フォローできるならしなければならず、その上すでに場に出されている切り札よりも強いものが手札にあるならそれを出さなければならない。
(3) 台札が切り札でなく、フォローできない場合
A) 現時点でトリックに勝っているのが味方であれば何を出してもよい。
B) 現時点でトリックに勝っているのが敵チームであれば
a. 切り札を出さなければならない。しかもすでに場に切り札が出されていて、それよりも強い切り札があるならそれを出さなければならない。
b. すでに場に切り札が出されていて、それより強い切り札が手札になかったとしても、負けると分かっていながらも切り札を出さなければならない。(つまり義務的なアンダーラフ)
C) 補足。現時点でトリックに勝っているのが味方で、味方が切り札を出している場合、ディスカードまたはオーバーラフは認められるが、味方が出した切り札よりも強い切り札を持っているならアンダーラフは認められない(つまりアンダーラフ禁止)。

2.スイスのヤス(パターンA)
(1) 台札が切り札でないとき
A) フォローできる場合、フォローしてもいいし切り札を出してもよい。ただし、すでに場に切り札が出されていたら、それよりも弱い切り札を出してはならない(つまりアンダーラフ禁止)。
B) フォローできない場合、ディスカードしてもいいし切り札を出してもよい。ただし、すでに場に切り札が出されていたら、それよりも弱い切り札を出してはならない。手札には切り札しかなく、しかもすでに場に出されている切り札よりも弱いものばかりである場合に限り、何を出してもよい。
(2) 台札が切り札の場合、フォローできるならしなければならない。ただし手札にある切り札がJのみだった場合には何を出してもよい。手札に切り札がなければ何を出してもよい。

3.スイスのヤス(パターンB)
(1) 台札が切り札でないとき
A) フォローできる場合、フォローしてもいいし切り札を出してもよい。ただし、すでに場に切り札が出されていたら、それよりも弱い切り札を出してはならない。
B) フォローできない場合、何を出してもよい。すでに場に切り札が出されていても、それよりも弱い切り札を出してよい。
(2) 台札が切り札の場合、フォローできるならしなければならない。ただし手札にある切り札がJのみだった場合には何を出してもよい。手札に切り札がなければ何を出してもよい。

 まあそういうわけでして、伝統的なトリックテイキングゲームでは「最初から最後までメイフォロー」のゲームよりは「フォローしてもいいし切り札を出してもいいがフォローできるならディスカード不可」ってゲームの方がおそらく多いし、マストラフのゲームに至ってはタロット系ゲーム群がありますからメイフォローなんてとても太刀打ちできない一大勢力です。その上マストラフは一枚岩ではなく、それと関連してアンダーラフには「義務」「可能」「禁止」の3種類があったりしてわけが分かりません。やはりトリックテイキングはマストフォローが大原則で、それ以外は特殊だと捉えておくのが一番いいのではないかと私は考えます。
 ただ昨今の商用ゲームでは合理的でスッキリしたルールが求められるので、一歩間違うと無意味に複雑になってしまうマストラフ等が避けられる傾向にあるのは事実でしょう。それに比べてメイフォローは分かりやすいため商用ゲームに採用されることがときどきあり(StichelnやMit List und Tückeなどがそうですね)、それが「トリテにはマストフォローのものとメイフォローのものとがある」という認識につながっているのかもしれません。
 それでも「伝統トリテ好き」の私から最後に一言申し上げますと、マストラフが絡んだルールは確かに複雑なものもありますが、それなりの理由があって生まれたルールであり、慣れてしまえば楽しめるものばかりです。こうした「狭義のマストフォローでもメイフォローでもない伝統ゲーム群」がもっと多くの人に親しまれることを希望しつつ、今日はここで筆を置くことに致します。

黒宮公彦