ピノクルの魅力

(この文章はTrick-taking games Advent Calendar 2019の9日目の記事として書かれたものです)

 一昨年のアドベントカレンダーに「66の魅力」という記事を投稿しましたが、そこで次のように書きました。
「ネットを見ていて気づいたんですが、66やピノクルの情報が少なくありません?両方とも定番だと思うんですが、ひょっとしてもしかして、みなさん66もピノクルもしない?もしそうだったとしたら、そりゃあまりにももったいない!」
 66については一昨年お話ししましたので、今回はピノクルの話です。

 「ピノクル (Pinochle)」は日本のトランプゲームの本では「ピノクール」だの「ヒノークル」だのとムチャクチャな名前になってたりしますが、実際には「ピ」にアクセントがあり、強いて言えば「ピナコー」に近いですかね。少なくとも「ノ」や「ク」が長く発音されることはありません。アメリカ生まれのゲームで、たぶんアメリカ以外ではプレイされていないんじゃないかと思います。アメリカではかつてはずいぶん人気のあったゲームのようですが、昨今は昔ほどではないみたいです。まあトランプゲームの凋落は世界的な現象で、それを思えばピノクルはまだまだプレーヤーがたくさんいるゲームと言っていいでしょう。イギリスの「ベジーク」から生まれたゲームだと言われますが、ドイツにも「ビノケル」というゲームがあり、おそらくこちらとも何らかの関係があると思われます。
 日本でピノクルをプレイしようとすると障害となるのが「トランプゲームなのにトランプでプレイできない」という厄介な問題です。どういうことかと言うと通常のトランプから2〜8を除いたものが2組(これを「ピノクルデック」といいます)必要なのです。え、ラミィキューブで代用する?いやそれはやめといた方がいいです。「マリッジ」(同じスートのKとQの組合せ)や「ピノクル」(スペードQとダイヤJの組合せ)といった手役(メルド)が分かりづらいので。
 ってなわけで100円ショップでいいのでぜひとも素直に同じトランプを2組買って下さい。トランプを2組使うトリテといえばピノクルに加えて上記のベジークやビノケル、それにビノケルの親戚に当たるドイツの「ガイゲル」、そしてドイツといえば「ドッペルコプフ」もあります。「キャンセレーションハーツ」や、そこから生まれた「キャンセレーションブラックレディ」(これは草場さんの創作ゲームだと思いますが)もあります。トリテ以外では「カナスタ」のようなラミー系のゲームや「スパイトアンドマリス」などもありますので、トランプを2組買うメリットは意外と大きいですよ。また米アマゾンか何かを利用してピノクルデックを個人輸入するという手もありますが、この場合にはピノクルデックが2組で1セットとなったものがあるので(ふつうにあります。珍しくも何ともありません)、これを購入することを強く勧めます(理由は後ほど述べます)。
 ピノクルのルールについてはすみませんが本かネットで調べて下さい。個人的には3人か4人のゲームをお勧めします。ただしくれぐれも、調べたルールがすべてだとか正しいルールだとか考えないようにして下さい。ピノクルには嫌になるくらい数多くのヴァリエーションが存在します。これもまた残念ながら日本人がピノクルをプレイしようとする際の障害となってしまっていますが、あまり気にせず「こんなルールもあるんだ」くらいの気持ちでとりあえずやってみるのがお勧めです。
 なおピノクルデックを使ってプレイされるため「ピノクル」と同じ名前で呼ばれてはいますが、2人式・3人式・4人式はそれぞれ根本的に別のゲームだと考えた方がいいでしょう。ただしメルド(手役)の種類と点数はすべての人数・ヴァリエーションに共通だと思います。
 ついでに言うとピノクルはフォローに関するルールでさえ─マストフォローという点では共通しているものの─いくつかのヴァリエーションがあります。4人式の場合現在最も一般的なルールは以下ではないかと思いますが、少々古いルールなのかもしれません。
1.台札スートをフォローできるならフォローしなければならない。
2.台札スートがフォローできないとき切り札があるなら切り札を出さねばならない。
3.上記2つのルールを守った上で、場に出されているカードに勝てるカードがあるなら必ずそれを出さなければならない。

 さて、ピノクルの魅力とは何か。それはやはり「メルドによる得点」ということになるでしょう。カードはA10KQJ9のわずか6ランク、しかも同じカードが2枚ずつあるので、トリックテイキングよりはラミーに向いているカード構成です。メルドによる得点を認めるトリテはほかにもありますが、ピノクルやベジークのように同じカードが2枚ずつあるデッキでプレイするものでなければメルドができることは多くないように思います。別の言い方をするとメルドは「たまたま、偶然できる」ものなので、ゲームに運の要素が加わることになるわけですが、これがゲームを面白くしているかと問われると、どちらかと言うとダメにしてしまっていることの方が多いと、少なくとも私には感じられます。「運ゲー感」ということばがあるのかどうか知りませんが、とにかく「これって運ゲーじゃん?」と感じる度合いが増してしまうのですね。その点ピノクルではたいていの場合メルドにより何らかの得点が得られますのでかえって「運ゲー感」が下がっているように感じます。このため配られた手札を見て「今度はどんなメルドがあるかな」と確認するのを純粋に楽しむことができるゲームとなっています。早い話がピノクルは「トリックを取ることによって得られるカードの得点と、メルドによる得点とのバランスがいい」ということです。

 カードの得点と言えば、ピノクルではカードの点数システムが3種類あります。
1.本来の方式:A=11点、10=10点、K=4点、Q=3点、J=2点、9=0点。スカートや66がお好きな方にはお馴染みのシステムです。
2.単純化された方式:A・10=10点、K・Q=5点、J・9=0点。
3.もっと単純化された方式:A・10・K=10点、Q・J・9=0点。もしくはA・10・K=1点、Q・J・9=0点(実はこちらが主流)。
 私のお薦めは、2人なら1を、3人なら1か2を、4人なら2か3を採用する、というものです。

 では人数別に見ていきましょう。まずは2人ゲームです。66と似たようなゲームですが、66が純粋にトリックテイキングに専念するゲームであるのに対し、ピノクルは「トリックテイキングもしつつ、メルドを作って得点することを楽しむゲーム」だと言えます。さらに言うと、3・4人式ピノクルのメルドがどちらかと言うと「配られた手札にあるかないか」というだけのものであるのに対し、2人式では常に「どのカードを出してどのカードをメルドの得点のために温存するか」という選択に迫られますので、それは言い換えると「いいか、メルドってのはな、運良く配られるもんじゃねえんだ、配られたカードを利用して自分の手で作り出すもんなんだよ!」ということでもあります。これは3・4人式では味わえない魅力だろうと思います。
 私は個人的に「純粋にトリックテイキングに専念」したいタイプで、66の愛好者ですので2人ピノクルは冗漫に感じてしまうのですが、「メルドを作る楽しみ」「メルドのために何を残して何を出すかのジレンマ」がお好きな方にはお薦めします。

 個人的にピノクルは3人がベストだと思っています。アメリカではあるときから4人ゲームが主流になって3人ゲームは廃れてしまっているようですが、面白いって3人式!
 いや3人式といってもたくさんのヴァリエーションが存在するのですが、ビッドあり、1人に15枚ずつ配って3枚が山札、ビッダーが山札と手札を交換できる、というのがお薦めです。ビッダーが成功したら獲得した点数がすべて得点になるのかビッドした分だけか、ビッダー以外の人も(メルドの点数も含めて)得点できるかビッダーだけか、といった細かなルールの違いがたくさんあって、それが数々のヴァリエーションを生み出しているのですが、どれを採用してもいいと思います。参照した本なりサイトなりに従って下さい。
 3人ゲームの魅力はやはり「どこまでビッドを吊り上げられるかの見極め」と「ビッダーになって山札を見るときの高揚感」でしょうか。ビッダーが山札を取って手札の一部と交換できるゲームはたくさんありますが、そうしたゲームでは切り札やランクの高いカードを山札に期待するものです。ところがピノクルではその上さらに「山札のカードを使って新たなメルドができるかもしれない」という期待が加わるのでして、期待どおりにカードが来た日にゃ大興奮です。
(くれぐれも山札に期待してビッドを吊り上げすぎないように。たいていはエライ目に遭います)

 現在アメリカでは4人ゲームが主流のようです。向かい合った2人がパートナーとなる点は共通です。あとはもう……掃いて捨てるほどのヴァリエーションが存在するとしか言いようがありません。
 手札は12枚ずつ配りきり、その後ビッドをしてビッダーを決めるのがふつうだと思います。私のお薦めはビッダーがパートナーと手札を交換するというものです。これについてもまあ実に多様なヴァリエーションがあるのですが、私が好きなゲームでは以下の手順で行われます。
1.ビッダーが切り札を宣言する。
2.ビッダーのパートナーが手札から3枚選んでビッダーに渡す。
3.ビッダーが手札から3枚選んでパートナーに渡す。
4.全員がメルドを公開する。
 要するに大貧民が大富豪に2枚渡して、大富豪が大貧民に2枚返すというのと同じなのですが、これがパートナー間で行われるわけですよ。交換の前に切り札宣言があるので、切り札を3枚渡すのがパートナーの基本戦略ですが、「これを渡せばメルドができないかなー」と期待しながらなるべくメルドができそうな3枚を選んで渡すわけです。うまくいったときにはメルドを公開しながら2人でニヤリ、です。

 ピノクルは4人ゲームだけでも星の数ほどのヴァリエーションがあるので紹介しだすときりがないのですが、それでも「ダブルデック・ピノクル」には触れておかねばならないでしょう。その名のとおりピノクルデック2組から9をすべて除いた80枚でプレイします。手札は20枚ずつの配りきりです。ピノクルデック2組がセットになったものをアメリカに行ったついでに玩具屋で買うか、アメリカから個人輸入するか、もしくは100円ショップでトランプを4組買って下さい。
 これは楽しい。高得点のメルドがポンポン飛び出す、とにかく派手なゲームです。まあ逆に言えばゲームが大味になるってことでもあるのですが。私のお薦めは「ワイプオフ (wipe off)」というルールを採用することです。これはプレイで20点(A・10・K=1点、Q・J・9=0点で計算して)取れなければ0点になる、つまりメルドでどれだけ高得点を出しても取り消しになる、というルールです。
 もう一つ、「手札にマリッジのメルドがない人はビッドしてはならない。ビッダーはマリッジがないスートを切り札に選んではならない」というルールも採用すると面白いかもしれません。とにかく4人ピノクルのオプショナルルールなんてホントに嫌になるくらいあります。

 うーん、これだけ書いてもピノクルの魅力を読者に伝えられた気に全然なりません。カードが配られて手札を見る、その瞬間のワクワク感が他のトランプゲームとは少し違っているような気がします。メルドの得点が占める割合が大きいのでスカートなんかに比べたらはるかに「運ゲー」なんです。でも楽しい。そう、スカートの魅力が「面白さ」であるならピノクルの魅力は「楽しさ」だと言えます。何なんですかね、ピノクルの持つあの独特の雰囲気は?決して他のトランプゲームと大きく違っているわけじゃないんです。でも、少しだけだけど、何か違う。その魅力を少しでもお伝えしようと頑張ってみましたが、己の表現力の乏しさに気づかされただけでした。もうこれ以上はどうしようもないので、どうぞ皆さん、ご自身でピノクルを体験してみて下さい。

黒宮公彦