66(シクスティシクス)の魅力

(この文章はTrick-taking games Advent Calendar 2017の19日目の記事として書かれたものです)

 今日は私の好きなトリテの話をさせていただきます。
 基本的にはトランプやタロットでプレイするトリテが好きです。ただしトランプでプレイするトリテのすべてが好きというわけではありません。手札の枚数が少ない、あるいはプレイに使われない山札がたくさんあるトリテはどうしても運の要素が強くなるので好きでないものが多いです。一方ドイツやアメリカを中心に製品化されて販売されている新作のトリテも嫌いではないし、いくつかは所有していますが、トリテとして「不自然なひねり」が加えられているものや、あるいは伝統的なトランプゲームにカードの特殊効果を加えた程度のものはあまり好きではありません。
 製品化されたトリテだと「2人限定!?となると出番が限られるし購入は見送るかな」とか「3〜6人ってことだったし買ってみたけど3人だとイマイチだな」なんて感想になることもありますが、トランプなら「2人ならこれ、3人ならあれ」という具合に人数に合わせて違ったゲームを選べるわけで、これがトランプの大きな魅力の1つと私は考えています。
 トランプを使った好きなトリテをいくつか、人数別に思いつくままに挙げてみましょうか。
 2人なら、カウンターポイント(パーレット作)、66、クロビオッシュ(「クラベルヤス」等とも呼ばれる)、ウィドウ・ピッチ。
 3人なら、ミットレールヤス、99(パーレット作)、スカート、ピノクル。
 4人なら、モロトフヤス、ヴァラエティ(アボット作)、スペード、ドッペルコプフ。
 5人なら、日本式ナポレオン、オーヘル!。
 見てのとおりトリテ界の定番ゲームが多いです。なんだかんだ言ってもやっぱり定番が面白いように思います。

 さて、この中から1つ選んでその魅力を語りたいところなんですが……。ネットを見ていて気づいたんですが、66やピノクルの情報が少なくありません?両方とも定番だと思うんですが、ひょっとしてもしかして、みなさん66もピノクルもしない?もしそうだったとしたら、そりゃあまりにももったいない!
 ピノクルは3人か4人が面白いです。2人式ピノクルは66と似たようなゲームですが、つまんねーのでやらんでよろしい(すんません、完全な独断です、ハイ)。ってなわけで今日は66の魅力について書くことにします。

 「66」は英語読みだと「シクスティシクス」、ドイツ語読みだと「ゼクスウントゼヒツィヒ」。とりわけドイツ語圏で人気のあるゲームで、24枚のカードを使って2人でプレイします(3・4人でもできるそうですが私はやったことありません)。オーストリアには「シュナプセン」という20枚(4枚の9を抜く)のカードを使ったヴァリアントもあります。これ以上の話(特にルールについて)は本かネットで調べて下され。

 2人式ピノクル、あるいはベジークは手役を作って得点を稼ぐ側面が強く、トリックを取る側面がぼやけてしまってます。その点66では手役はマリッジのみというシンプルさ。おかげで札固有の点数が生きてくるってもんですよ。加えてカードは24枚、点数のないカードは9だけ、さらに手札は(前半戦では)常に6枚と多すぎず少なすぎず。そのためスピーディで気の抜けないゲーム展開となります。この「あくまでもトリックテイキングに重点が置かれていること」と「無駄を削ぎ落とした鋭さ」こそが66の魅力と言えましょう。
 とにかく先に66点を取った方が勝ちなので、点数をきちんと把握しておく必要があります。詳しく言うと (1) 自分の取った札を覚え、(2) 自分の得点を覚え、(3) 相手の取った札を覚え、(4) 相手の得点を覚える、ってな具合でとにかく覚えるゲーム。覚えるの大事。覚えた上でさらに暗算で得点計算もしなくちゃいけません。ただし、だからと言って考え込んで1手1手に時間掛けちゃダメ。66はテンポ良くプレイしてこそ楽しさが分かるというもの。長考禁止。

 もう一つ大切なのは、必ず7ポイント先取のポイントマッチでやること。1ディールごとの勝負なんてことやっちゃダメ。ポイント制だとシュナイダー(負けた側が32点以下)は2ポイント、シュヴァルツ(負けた側が1トリックも取ってない)は3ポイント。これ大切。手札が悪いときだってある。でもそんなときでも最低33点は取って意地でもシュナイダー負け(ましてやシュヴァルツ負け)だけは避けねばなりませぬ。
 逆にこちらが有利ならば当然シュナイダー勝ち・シュヴァルツ勝ちを意識してプレイを進めるわけですな。なるべくいいカードが相手に渡らないうちにクローズしてしまいたい。この「クローズのタイミング」ってのが66の魅力の1つで、間違いなく66点取れる(しかも相手より先に!)と確信できなきゃクローズできないし、だからといってクローズしないと相手にいいカードが渡ってしまうかもしれないというジレンマ。クローズは山札から手札を補充する前でも補充した後でもできるので、手札補充かその前にクローズかってだけでももう十分に悩むところ。ってなわけで66点取りゃいいってわけじゃないのよ66は!

 前半戦は後半戦に向けて手札を調整する戦い。とはいえいいカードは後半戦に残しときゃいいなんて単純な話ではなく、何よりもそのディールでのカード運がいいか悪いかを的確に判断すべき大切な局面であります。カード運が圧倒的にいいと判断したらさっさとクローズするべきだし、逆に悪いと判断したら勝ちを潔くあきらめてシュヴァルツ負け・シュナイダー負けを避けるのを目標に切り替えるのも大切なこと。シュナイダー負けを避けるために有効なのは何と言ってもマリッジで、手札がひどくてもマリッジを2回公開できれば逆転勝ちの可能性さえ出てきたりするのが怖いところ。そんなことを考えていると前半戦はメイフォローとはいえ「捨て札するか、それとも切り札を出してでも取りに行くか(トリックを取らないとマリッジの公開はできないことに注意)」「マリッジを期待してKやQを温存するか、それとも使ってしまうか」「何をリードすべきか」など悩みどころ満載。後半戦(もしくはクローズ後)はマストウィンのルールが適用されるので、相手の手の中にマリッジ(とりわけロイヤルマリッジ)がある(ありそう)ならフォローやラフの義務を利用してマリッジを切り崩そうと頭をひねるのも66の魅力のうち。
 すでに述べたようにマリッジってのは曲者で、劣勢の側にも逆転のチャンスを与えているので優位に立ってもゆめゆめ気を抜いてはなりませぬ。ましてや2人ともマリッジを公開したとなったらお互いあっさりと66点に達する可能性は十分にアリ。なのでどちらが先に達するか、早い者勝ちスピード勝負の始まり。これは記憶力の勝負でもあって、自分が取った得点をきっちり覚えておかないと66点に達していることに気づかずに勝負を続けて、先に相手に勝利宣言されてしまうことも……。だからと言って慌てて勝利宣言しても実際に計算してみて66点未満だったら負けだし、そのあたりもジレンマなわけですな。
 マリッジといえばロイヤルマリッジが40点というのは高すぎのように思います。これが66の唯一の欠点かな。他のマリッジと同じく20点でいい気がします。

 以上、66の魅力(の一部)をご紹介しましたが「大変そう」と感じた人もいらっしゃるでしょう。確かにわりと重いゲームではあります。でも上に書いたことを真に受けて真面目にプレイしちゃいけません(じゃあ書くなよ)。だってゲームは楽しむためにあるんだもの。最後にとっておきの秘訣をみなさんにだけこっそりお教えして拙文を終えることにします。
1.プレイされたAと10、それにマリッジは確実に覚えておくこと。あとは忘れてよし!テキトーにやれ!
2.ビール片手にやるべし!するとあ~ら不思議、テキトーにやれるようになります。
*真面目な話をすると、オーストリアではシュナプス(オーストリア特産の蒸留酒)を賭けてプレイするから「シュナプセン」と呼ばれるようになったという俗説があるくらいで(これはあくまでも俗説だとドイツ語版ウィキペディアに書かれていますが)本場ではグラス片手にプレイするのはふつうのことだと思われます。実際私自身も白ワイン片手にシュナプセンに興じる人たちをウィーンで目撃したことがあります。

 じゃあみなさん、66を楽しんでみて下さいねー!

黒宮公彦