デッキ構築型トリテ考(後編)

(この文章はTrick-taking games Advent Calendar 2017の13日目の記事として書かれたものです)

 まずはお詫びと訂正です。7日目の記事のタイトルが「デッキ構築型ゲーム考(前編)」となっていましたが「デッキ構築型トリテ考(前編)」の間違いでした。すみません。

 さて、デッキ構築型トリテについて考察する第2回(後編)です。今回のテーマは「ドラフト」。そう、ドラフトはデッキ構築の重要な手段ですから、この話題を外すわけにはいきません。もっとも前回お話しした「デッキ構築型トリテ」の定義を以下のように修正する必要があります。
【「ディールの初めに手札がランダムに配られるのではなく、各自が好きなカードを選んで手札とし、それを使ってプレイするトリテ」も広義の「デッキ構築型トリックテイキングゲーム」と見なす。】

*注:以下の文章に「ブースタードラフト」という言葉が出てきますが、これは「世界の七不思議」等で採用されているシステムのことを指します。マジック:ザ・ギャザリング経験者の中には「それは本来のブースタードラフトじゃない」「そんなもんブースタードラフトとは呼ばない」と感じる方もおられるかもしれません。あらかじめお断りしておきます。また「マジック:ザ・ギャザリング」を以下「マジック」と呼ぶことにします。

 去年でしたかね、ネットで「ブースタードラフトしてからブラックレディをする」って話を見かけて「へぇ」って思ったんですが。実は私も昔「ブースタードラフトしてからトリテをする」って考えたことがあって、でも「ブラックレディをする」という発想は真っ先に切り捨てたので、「へぇ、それって面白いのか」と驚きました。で、今回ちょっとその辺のお話をさせて頂こうと思います。

 「ブースタードラフトしてからトリテをする」ってことを考えたのは2009年のことではなかったかと思います。折しもドイツゲーム界隈はドミニオンブーム。「デッキ構築型ゲーム」という用語が次第に定着していくのを横目で見ながらも、ネットでは「マジック経験者はドミニオンを<デッキ構築>というよりも<ドラフト>と捉えている」という記事をちらほらと見かけて、恥ずかしながら当時システムとしてのブースタードラフトしか知らなかった私の頭は「???」状態。慌ててTCGにおける「ドラフト」の概念についての解説をネットであれこれ読んでようやく納得した次第です。
 そのときにほぼ自然の成り行きで「ブースタードラフトしてからトリテをする」ってことを思いついたのですが、同時に次のことも考えました。すなわち(ブースタードラフトに限らず)ドラフトってのはプレーヤー1人1人の作戦が違うから成り立つもんだろう、と。私はTCGは息子につき合ってポケモンカードを少しやったことがあるくらいでマジックはしたことがなく、詳しいことは分からないんですけども。でもプレーヤー全員が同じ作戦を取るようなゲームで、しかもカードの能力も種類が多くない(トランプなんてまさにそうです)ようなゲームでドラフトをやっても、成り立たないってことはないまでも、面白くはないだろうなぁと、そんなことをぼんやりと考えました。この時点で「ブラックレディをする」といった発想はボツとなったわけです。
 となると、あれか。各自に手札を配るんだけども、それとは別に「目的カード」みたいなのをあらかじめたくさん用意しておいて、各ディールの最初に各プレーヤーに1枚ずつ配ると。で各自こっそりと目的カードを見て、例えば「スペード1枚1点」とか書かれているのを確認し、その上で手札をブースタードラフトして、その後トリテをする、とまあそんな流れのゲームになるのか、と考えたのです、が。じゃあ「目的カード」の内容をどうしようか、「スペード1枚1点」とか「ハート1枚-1点」とか「各スートの9と10は5点」とか……、と考えてるうちに、あれ、こんなゲームどっかでやったことあるぞ?ロバート・アボットの「ヴァラエティ」と似てるんだけど、でももっと根本的に似てるゲームがあったような……?
 そこでハタと気づくわけですな、あーこれってカール=ハインツ・シュミールの「ヴァス・シュティヒト?」じゃん、と(ちなみにメビウスが販売したときは「バス・シュティッヒ」というタイトルでした)。ブースタードラフトではないけれど、でもこのゲームの前半で行われることがドラフトなのは間違いなく。「目的カード」ならぬ「目的タイル」もちゃんとあって、しかも複数、しかも公開、他プレーヤーに見えまくり。その上ドラフトの段階で切り札(切り札スートに加えて切り札ランクもある)は分かっておらず「ドラフトで自分に都合のいいカードばかり集めようったってそう簡単に目的は達成させねえぜ」って作者の意図が見え見え。しかもドラフトの段階でディーラーだけは切り札を知ってるのに、ディーラーの目的は他プレーヤーの目的達成を阻止することだという。
 もう何というか、完璧なんですよね。「ドラフトしてからトリテをする」というアイディアを生かすために徹底的に考え尽くされたシステム。「変態トリテ」の代名詞だったこともあるこのゲーム、確かにある意味変態、ある意味ヤリスギですが、でもルールの1つ1つにちゃんと意味がある、考え抜かれて作られているゲームであることが分かります。
 かくして私は「ブースタードラフトしてからトリテをする」というアイディアはとりあえずメモするだけにして、寝かせることにしました。いつの日か別の新たなアイディアを思いついて組み合わせ、ヴァス・シュティヒト?を超えるようなゲームへと進化させたいと願っておりますが、そんな画期的なアイディア、一向に思い浮かぶ気配もありません。
(実を言うとブースタードラフトとフリーゼの「トリックマイスター」を組み合わせたらわりと簡単にゲームが1つ作れてしまう気がするんですが、でもそれって要するに「パクリ」だよな、と思うのです)

 まあとにかくそういう経緯があったのです。そこで冒頭に述べたようにびっくりしてしまったのでして。ブースタードラフトしてからブラックレディをすると面白いのか、そうなのか、意外だなー、と。
 現在最も一般的なブラックレディは各ディールの最初に手札からカードを3枚選んで隣に渡すというルールで行われることはご存じのとおり。これもまあ、言ってみればちょっとしたドラフトなわけで、それに飽き足らずあえて手札丸ごとドラフトをやったら果たしてどうなるのか。予想では各プレーヤーの手札が均一化されるんだろうと思うんですが、違うのかな?とにかく一度試さないといけないと考えています。
(とは言うものの、ここだけの話ですが、ブラックレディって正直言って私そんなに好きじゃないんですよ。「スペードQ-13点」ってのはいくらなんでもバランスが悪すぎると思うので。つまりブラックレディは「カード運の良し悪しが引き起こす不条理こそを楽しむべきゲームなのだ」ってのが私の個人的な意見です)

 というわけでデッキ構築型トリテの一種に「プレイ前にドラフトを行う」というタイプのゲームがあり、その中で最も重要な作品はシュミールのヴァス・シュティヒト?である、ってのを今回の結論とさせて頂きます。前回に引き続きまたしても、デッキ構築型トリテはドミニオンよりも前からあるってことを確認する結果となりました(ブラックレディでプレイ前に隣に3枚渡すルールもドラフトだと考えればさらに古くからあることになりますが、これをドラフトやらデッキ構築やらと呼ぶのはさすがに無理があるでしょう)。
 それどころかヴァス・シュティヒト?は1993年に出たゲームですから、TCGの元祖でありドミニオンの元となったゲームでもあるマジックと同い年ということになります。ということはヴァス・シュティヒト?がドラフトのアイディアをマジックから借りたわけではないことになりますから(マジックがドラフトと結びつくのは発表後かなり経ってからのことのはずです)おそらく独自に考案したのだと思われます。そしてまたドラフトを利用したヴァス・シュティヒト?以前のトリテを私は寡聞にして知りません。もっと言うと「プレーヤーにカードを配ります」から始まらないトリテを(デュプリケートブリッジを除けば)私はヴァス・シュティヒト?以外に知りません。考えれば考えるほど恐ろしいゲームです。

 以上、2回にわたってデッキ構築型トリテについて考察しました。前編では「トリテを通じてデッキ構築をするゲーム」、後編では「トリテのためにデッキ構築をするゲーム」を見た、とまとめることができるでしょう。
 前編で扱ったメタモルフォーシスなどの「トリックで取ったカードがそのまま次のディールの手札になるトリテ」が最も典型的なデッキ構築型トリテだと考えられます。また前編の最後に触れたジャーマンホイストなどの「トリックに勝った人が(トリックに出されたのとは別のカードの中から)好きなものを選ぶトリテ」は典型的なデッキ構築型とドラフト型の中間と言えます。つまり「トリックの勝者が好きなカードを選ぶこと」もある種のドラフトだと考えていいでしょう。ただし一般的にドラフトとは(トリックの勝者が選ぶのではなく)選ぶ権利が全員に平等に与えられるものを指すことが多いと思われますので、後編ではそうしたトリテを中心に見ました。これは逆に言うと、前編で扱ったのは「トリテのプレイが同時にドラフトの優先権を巡る争いを兼ねているトリテ」だった、ということでもあります。
 「デッキ構築型トリテ」というタイトルの持つインパクトのわりに内容は大したことなかったな、と感じた方も(大勢?)いらっしゃることと思います。すみません。でもこのジャンルは今回書いた以外にもまだまだ開拓の余地があるように感じますので、私自身もこの方面のトリテ創作を頑張ってみようかと考えております。

黒宮公彦